シヌノラは、自分が犯されることに対しては、驚くほどに寛容です。
シヌノラを犯した男をトチロー達が殺すケースでは、しばしば殺すことはなかった……という感想を述べるほどです。
しかしながら、シヌノラ自身が自分を犯した男を射殺するケースがいくつか存在します。
以下、個別のケースについて理由を見ていきましょう。
なお、ID番号は「コミックス ガンフロンティアにおけるシヌノラのプレイ一覧 Ver: 2007/4/7」で付けた便宜上の番号を意味します。
ID17(ストライカー、ハードネット) §
カテリーナはシヌノラを快楽で骨抜きにして無力化するために、媚薬を使ってストライカー、ハードネットにシヌノラを犯させます。
その後、ストライカー、ハードネットは、カテリーナの部下として、トチロー、ハーロック、スルスキーの3人を襲撃します。そして、スルスキーは狙撃により射殺され、トチローも死んだかに思えたピンチの状況となります。しかし、シヌノラは骨抜きにされておらず、その場に駆けつけてストライカー、ハードネットを射殺します。
この状況下において、シヌノラがストライカー、ハードネットを射殺する理由はトチロー達を助けることにあって、過去に自分が2人に犯されたことは射殺の理由になっていないことが読み取れます。
従って、「犯されることに寛容」という特徴と、「自分を犯した男を射殺する」という状況は両立します。
ID30(組織の男) §
組織の男とベッドの中で結合中に、シヌノラは裏切り者して射殺されそうになります。シヌノラは枕の下に隠した銃で、撃たれる前に組織の男を射殺します。
この状況下において、シヌノラが組織の男を射殺する理由は、非常にシンプルに「殺されないため」でしかありません。シヌノラは自分を犯した男には寛容であっても、自分を殺そうとした男に寛容という特徴は見いだせません。つまり、射殺は「犯されること」ではなく「殺されること」に対するリアクションであり、矛盾無く理解できます。
ID37(アエラ・イグマチオレスト、イレトール、アナルジャン、マスキー、カークオナニン) §
乱交銭湯でシヌノラはこの5人から同時に犯されます。この5人は組織の人間であり、トチロー達から情報を奪えば裏切りは許すという連絡を伝えられます。しかし、銭湯内が混乱状態になった時、その混乱に乗じて5人を射殺します。
この状況下においてシヌノラが5人を射殺する理由は、相手がシヌノラとトチロー達の命を危険に陥れる組織の人間だからでしょう。これも、犯されたことではなく、殺されることに対するリアクションと言えます。
ここまで見る限り、シヌノラの「犯されることに寛容」という性格は一貫しており、シヌノラが男を射殺するケースには別のより重要な理由(自分やトチロー達の命)が常に存在することが見て取れます。
ところが最後のケースは、それに該当しないように見えます。
ID43(ヒニンガム) §
ヒニンガムは公衆の面前で全裸のシヌノラの上の口と下の口からビールを飲ませ、ビール瓶で犯します。鋭敏な粘膜からアルコールがよりよく吸収されることで、シヌノラはきつい酒に酩酊したような状態になり、ダウンします。
その後、シヌノラ、トチロー、ハーロックは、乗った列車で偶然にヒニンガムと再会します。身長が高いと客車に入れない規則により、トチローだけが客車に乗り、残りは貨車に乗ります。しかし、シヌノラはヒニンガムを射殺します。射殺する瞬間は描かれず、銃声に気付いたトチローが貨車を見ると、既にヒニンガムはいません。シヌノラはトチローに「私にいろんなところからビールを飲ませてくれたお礼に 鉛のタマを食べさせてあげたの」と理由を説明します。
これについての考察が実はここでの本題です。
ヒニンガムがシヌノラに射殺される理由 §
上記のシヌノラの説明は間接的な表現になっていますが、「飲む」「お礼」「食べる」はもちろん、「犯す」「復讐」「殺す」を意味します。
従って、シヌノラの説明は実質的に以下の意図を表明しています。
「私のいろいろなところをビール瓶とアルコールで犯したので、その復讐として彼を射殺した」
もちろん、「男は殺せ、女は犯せ」の西部の掟から見て、男を殺す行為は正当であり、何ら問題にされることではありません。
しかし、この説明は要約すれば「犯されたので復讐のために殺した」ということで、「犯されることに寛容」というシヌノラの特徴に反します。
逆転の発想からの推理 §
どれほど酷い犯され方をしても、常に寛容の態度を一貫するシヌノラが、ヒニンガムについてのみ不寛容ということは考えられません。
そこで、シヌノラがヒニンガムを射殺した理由は他にあるが、その理由をトチローに説明せず、嘘の理由を説明した……という前提で理由を推理してみましょう。
ハーロックも嘘を黙認した §
まず確認すべきことは、トチローが最も信頼する相棒であるハーロックも、シヌノラの嘘を黙認したということです。
彼は貨車の上で、一部始終を見ていて何が起きたのかを知っていたはずです。
しかし、彼が真実の理由をトチローに告げることはありません。
好意と信頼を持っている相手に真実を告げないという選択は、以下の条件のいずれかを満たした場合に成立すると考えられます。
- 知ることによって、何か重大な問題を引き起こして相手をかえって不幸にしかねない
- 知ると相手が極度に不快になる
この場合、ヒニンガムの街を既に離れた以上、トチローを不幸にする重大なことがヒニンガム関係で発生するとは考えられません。
従って、理由は後者であると推測されます。
トチローは侮辱された §
「知ると相手が極度に不快になる」理由により、シヌノラがヒニンガムを射殺した理由をトチローに告げなかったとすれば、トチローが知ると不快になる「何か」が射殺の理由であったことになります。
ヒニンガムは身長の低い男を人間扱いしない傾向があるため、トチローを侮辱する発言を行ったとも考えられます。
その侮辱が見過ごせないものである場合、シヌノラはヒニンガムを射殺することで筋を通す必要が生じた可能性は十分に考えられます。
ヒニンガムは男なので、「男は殺せ」の西部の掟からすれば、それは何ら問題のある行動ではありません。
また、ハーロックもヒニンガムを射殺することに賛成したことでしょう。
それにより、貨車の上でシヌノラによるヒニンガムの射殺は実行されたわけです。
しかし、その射殺理由をトチローに説明するためには、トチローに対する見過ごせない侮辱行為の存在を説明しなければなりません。そのような説明は何らトチローの益にならないばかりか、不快感をもたらすだけでしょう。
ならば、それを告げないのが真の友愛というものです。
シヌノラは理由について嘘をつき、ハーロックはそれに異議を唱えなかったわけです。
シヌノラは深い真実の愛を持つ賢い女性であり、ハーロックは真の友情を知る男の中の男である……と言えます。
余談・更に深く作品にダイブする契機 §
実は、シヌノラがヒニンガムを射殺するシーンに矛盾が見られることに気付いたのが、この一連の文章を書く直接的な契機です。
作品により深くダイブすれば、より的確な作品像が得られるかもしれないというアイデアは、この事件から得られたものです。